大返し

5/6

89人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
羽柴秀吉は京にむかう。 苦難や悲痛、それらの衝迫にこらえきれず、立ち止まり色々と思案したいのだが、一刻を争う事態のために足を止めることは許されない。 進むことをやめた時、太陽を掴むほどの気運や勢いも失われるゆえに、だ。 京の近くには織田家の武将・丹羽がいるし、北越には鬼の異名を持つ柴田がいる。 彼らが光秀を討ち取れば、これまでの努力は水泡に帰す。 異例の抜擢を受けた秀吉であれ、丹羽・柴田という織田家の二人の重臣には序列でかなわない。殊に、信長という絶対的な能力の庇護者がいなくなれば、卑賤の身からの成り上がりものがどんな扱いを受けるか予期できずにいた。 (わしは冷遇されかねん) さすれば、光秀の犠牲は知られぬまま、本当に逆賊と認識されてしまうだろう。 そして光秀が敗戦した場合、光秀にどんな辱めを行うだろうか。 秀吉は駆ける。 光秀という天下の名将が、己を捧げてでも世を変えようとしたのだ。 それを無駄にすることができようか?
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

89人が本棚に入れています
本棚に追加