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配下の部下が真っ青な顔で、急報を告げた。
「殿!!羽柴が迫っております」
光秀はゆっくりと息を吸い込み、
「そうか――。あの猿めが来たか」
と、呟く。
落胆しているように光秀は視線を足元に落とす。
その姿にすら、光秀の秀麗さが伺えた。
「羽柴を迎え撃つ。全軍に令をくだせ」
光秀は命令した。
明智光秀の軍は安土から山崎へと、歩を進めることになる。
行軍中、光秀はくだらぬことを思った。
(我が軍は……死地へとむかっている。
この一歩一歩が死へと通じているのか)
光秀が見回すと、足軽も、武士も、さらには重臣にすら哀愁が漂っていた。
天下を奪取した軍とは思えない暗さである。あの、本能寺で見た軍とは別物のようにすら見えた。
安土城を支配してから光秀の前に、予想をはるかに超える厳しく、虚しい現実が立ちはだかっていた。
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