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「なぜ待たねばならないのだ。敵はあの山から来るぞ」
秀政は落ち着いた口調で訊ねた。
「この山道は危険です」
「危険?」
「すでに堀尾どのが進んでいます」
「堀尾どのが進んでいる…。で、あればこそ、この道をいくのだが。
それがいけぬのか?」
「敵は山上、味方は不利な山腹。
このまま一戦を交えれば、地の利は敵にあります」
七郎兵衛は、かすかに震えた声で進言した。
「ほう……。で、」
この時すでに秀政は、七郎兵衛の言いたい内容はわかっていた。
それでも気付かぬように、次の言葉を促す。
「七郎兵衛よ、つまりなんだ」
「既に登られた堀尾殿が敗れたら、必ず共倒れになりましょう。
道を替えて登ってこそ勝利の見込みがあるのではないでしょうか」
一瞬間、考える間を置き、
「なるほど。
七郎兵衛の思案は正しい!」
と、秀政は少々大袈裟に賛同した。
少々大袈裟であればこそ、部下は感激し、秀政に意見できる者として成長していくのであった。
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