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一進一退。
押しては押し返される戦況。
陣中の光秀の周りでは、諸将がジリジリとした歯痒さを持て余している。
(泰平のために我を犠牲にする…)
その考えで戦況を見つめる光秀のみが、涼しい顔つきのようにも見えた。
しかし、光秀の内心は違った。呼吸を急かすような何かが生まれ、異常な心拍数となっている。泰平のために、と言い聞かせねば、発狂しかねない状態だった。
(この戦は……なくてはならない。
ここで羽柴殿が我を討つからこそ、天下は羽柴殿の手中に入る。
しかし、だからといって……)
光秀は後悔にも似た気持ちで、戦場に眼差しをむけた。
深紅の鮮血が吹き荒れ、死体の上に死体を重ねていく。
同じ人間同士、突き刺し、斬られ、銃撃を受け、死屍の上を踏み荒らす。
泰平のために……。
光秀、秀吉の願いがそうであっても、実際に行われているのは願いに真っ向から反する残虐な行為。
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