89人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
「ならぬ…!」
光秀の瞳が幽遠とした光りを覗かせた。
則家、貞連はハッとした。
「では殿、どうなさると言うのですか…」
「則家よ、我を介錯するのだ。
さすれば、この惨憺たる景色を見ずにすむ」
「はやまってはなりませぬ…殿」
則家は涙目で訴えた。
貞連は叱るように放つ。
「弱気はなりませんぞ。まだ我等には秀満さまも安土城に居ます。
はやまっては殿に身を捧げた武士に手向けられません」
「この光秀に汚点を生ませる気か!」
勝利できないことを知る光秀は、“潔し“だけが武士として生きる最後の砦だと知っていた。
「汚点とは……!
貞連はそのように言ってるのではありません!
ただ、殿は天下人であります。
ここで諦めては、殿は…殿は…末代まで裏切りの汚名を受けますぞ」
最初のコメントを投稿しよう!