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「よくぞ、来てくださった」
と、光秀は慇懃に挨拶をした。
「はっははは、明智殿そう水くさい挨拶はよそうじゃありませんか。この無学な猿にゃできませんから。ところで、なんの用でございましょう?」
と、普段と変わらぬ気さくさで尋ねる秀吉だが、警戒の色は隠しきれず瞳に浮かんでいる。
光秀は周囲に人が居ないか、神経を尖らしつつ、
「耳をお貸し願う…」
と言いながら、秀吉の近くに身を寄せ付け、小声で囁いた。
「……今のままでは民衆が苦しむ事態になる――殿が権力を握る限り――」
光秀は、その短い言葉を口早に言った。
すぐに大きく目を開いた秀吉は、いかにも驚いている風にも見えた。が、平静を失っていないことを、探るような目つきが証言していた。
光秀は安堵した。
(きっと、同じ危惧を抱いていたに違いない)
信長は――。
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