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野心により群雄割拠する世にありて、武力のみでは天下を奪うことはできない。
武力だけでは、世界を破壊するだけだ。
孟子がいうように霸者ではなく、王者とならねばならない。
王者は民衆に推され統一者となる、人徳と信頼を持つ者のことだ。
「……羽柴殿、貴公ならば破壊から救えるだろう」
光秀は呟く。
真剣な声音ゆえに、秀吉の胸を熱くする。
しかし、秀吉は表情を隠すために大きく笑った。
「わしみたいな無学が、どうやれば……」
と、微笑を漂わせたまま、小声で呟く。
(まだ、この光秀のことを信じていないようだ)
と、悲しく思う反面、当然だともわかる。
そこで、
「私を討て――」
と、小声ながらも力強い語気で光秀は言った。秀吉の不審を断つために、語気を強めていた。
秀吉の顔は一瞬真顔になった。それは、明らかに我を失った顔だった。
そしてすぐに、小さな声で笑いをもらし、徐々にその声を普段の大きさにした。
度肝を抜かれた証だろう、と光秀は思った。
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