火炎

6/13

89人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
野心により群雄割拠する世にありて、武力のみでは天下を奪うことはできない。 武力だけでは、世界を破壊するだけだ。 孟子がいうように霸者ではなく、王者とならねばならない。 王者は民衆に推され統一者となる、人徳と信頼を持つ者のことだ。 「……羽柴殿、貴公ならば破壊から救えるだろう」 光秀は呟く。 真剣な声音ゆえに、秀吉の胸を熱くする。 しかし、秀吉は表情を隠すために大きく笑った。 「わしみたいな無学が、どうやれば……」 と、微笑を漂わせたまま、小声で呟く。 (まだ、この光秀のことを信じていないようだ) と、悲しく思う反面、当然だともわかる。 そこで、 「私を討て――」 と、小声ながらも力強い語気で光秀は言った。秀吉の不審を断つために、語気を強めていた。 秀吉の顔は一瞬真顔になった。それは、明らかに我を失った顔だった。 そしてすぐに、小さな声で笑いをもらし、徐々にその声を普段の大きさにした。 度肝を抜かれた証だろう、と光秀は思った。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

89人が本棚に入れています
本棚に追加