火炎

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光秀は落胆しながら思う。 (私が薪―たきぎ―となり、民衆の希望の灯を羽柴殿につけてもらうのみだ。それなのに、なんであろうか? この胸を引き裂きたくなる衝動は) 光秀は本能寺に背を向けて、軍陣の方へと歩き始めた。 (殿。私もすぐに貴方のもとへ行く。後は、死を待つのみだ) わかりきったこの事実が、光秀の中では何度も頭に浮かび上がる。 ーー死を覚悟したというのに、まだ未練がましいことを思っているのか?  そんな信長の声が、冥土から聞こえてくる気がした。 「死が怖いのではない……」 光秀が一番後悔しているのは、配下の者たちの運命であった。 (すまぬ――。何も知らぬままで) 陣には一万もの兵がいた。そして、主君を弑したというのに、誰の表情にも暗さがなかった。 「殿……」 御牧景重が、近寄った。祝勝の辞を述べたいが、さすがに躊躇っている様子だった。  
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