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「……そうだょ。多分印刷で伸びたんだょ……大丈夫だょ…」
私は自信はなかったが、現実を受け入れる勇気も何も無かった。ただ…そうで無い事を祈るのみ……。
遥もゆっくりと頷くと、しばらくの間夏の暑い空気に冷たい風を感じながら沈黙を続けた。
…綾香が立ち上がり
「奈緒の所いこう。」
と言うと、みんな動き出した。写真を集める遥の手が微かに震えている。
奈緒の家は遥の家から電車で2駅だった。電車の中の空調は少し寒いくらいで、歩いて出た汗も一瞬で干上がった。それ以上に私達は青ざめていたと思う。
暖かい風が私の体温を上げる。普段なら電車の中の方が涼しくて好きなのだが……今はとても耐えられ無かった。
電車の中で綾香が、あれから眠れないと言った。
私だってうなされる……夢は覚えて無いが……起きると壁に引っ掻き傷の様な……自分の爪痕があった。
綾香は溺れる夢を見るらしい。
…遥は話を聞くたびに青ざめてゆく……
奈緒の家はマンションの一室で、入り口付近のインターホンで連絡を取った。奈緒は出なかったが、母親が鍵を開けてくれた。
エレベーターに乗り12階のボタンを押す。
簡単な動作でも恐怖とストレスで胃が痛くなった。…エレベーターはゆっくりと上がってゆく。
私は一瞬、奈緒は無事なのか心配でたまらなくなった…。
エレベーターは静かに止まりゆっくり…ドアが開く。
そして…一瞬……
……サーーっと風が抜けた。
…鳥肌が立った。
奈緒の家の前に来るとインターホンを鳴らす。
ガチャっと鍵が開いた。
……しかし誰もドアを開けない。
「…入っていいのかな……?」
「えっ…変じゃない?」
私と遥の会話を聞いて綾香は生唾を飲みながら、ドアノブに手をかけた。
……静かにドアノブを下げる
「…あけるよ」
……綾香の声は明らかに震えていた。
ガチャっと………ドアをゆっくりと引いた……
・・・・・・・・・
………………そこには誰も居なかった。
部屋は人の気配も感じられ無い。
「…お邪魔します!!」
綾香の力強い美声が暗い部屋を響かせる。
「…お邪魔します……どなたかいらっしゃぃませんか?」
…遥の声は震えて声になっていない。
私は部屋の一つから独り言が聞こえるのに気がついた。
綾香と遥は奥へと進んで行く。
…私はその部屋のドアノブを勇気を出して開けた。
……そこには部屋の端に座りこんだ奈緒が居た……。
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