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私は追われていた。相手の目的など知らない
しかし、追われているのだ
そして同時に、私は追い詰められていた
逃げる事に限界を感じていた
切れる息、筋肉の軋み。限界はもうすぐそこまで来ているのだ
振り返れば敵は目の前、右前方。その順番に二手で迫る
どうやら、幾人かは巻けたらしい
これならば、勝ち目があるかもしれない
敵との距離、数メートルもこの刀には丁度良いのだ
振り返り様に、まずは一人目
あまりに遅く、西洋大剣を振りかぶる彼に、抜刀一線。横凪ぎに抜き打った刀。
乱れ飛ぶ血飛沫は、彼の腹から。そこには本来は有り得ない空間が空いていた。
胴をほとんど切り離したのだ。もう虫の息も無いだろう
普通であれば、この刀を構え、このまま後ろの彼を切れば良いのだが
いかんせん普通ではないのが、この刀。
私が手に持つ刀は、まるで氷のように脆く、美しく輝きながら飛び散る
それは不思議な事に、地面に落ちるのではなく、刀の鞘へと還りゆくのだ
その間、ものの十秒もないだろう。
刀は鞘の中、元の形を取り戻しつつあった
そんな瞬間も、戦いの中では恐ろしく長い
後ろにいたはずの彼は、既に目の前に迫り、私の肩を掠める振り下ろし
私は咄嗟に左後ろへ半身を取り避けたが、サーベルの刃が、私の右肩の皮膚を裂いた。
それだけの筈なのだが、異様な痛み
血が吹き出る訳でもない、軽く赤い筋の通った傷口を軽く蔑視する私
大丈夫だ。さして傷は深くない
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