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思い出したように、鞘へと手を当てれば、重みの無い鍔と鞘だけがあるように感じられた
まだ、毒は回り切っていないのだろう。
それならばと、私は力無い腕で刀を抜いた
取りこぼしそうに、逆手で持った刀を、自分の腹へと当てた。
さすれば、形成される刀が私の腹を貫き、殺してくれるだろう
そして、この血の汚れを置き去り元の鞘へと戻るであろう
そう信じた私は、我が腹へと刀の鍔を当てがった
私の腹の中で刀が出来上がってゆく様を、ありありと伝えてゆく痛み
そのうちに、痛みは消えてゆくのだが、それは幸か不幸か、神経毒のため
それが死にゆく痛みすら忘れさせた
しかし、そんな夢心地は次の瞬間に掻き消される事となる
サーベルの彼の叫び声。
断末魔の狂気が私の真後ろで振り撒かれる
私は、冥土の土産にと、その姿を確認するために転がった
サーベルの刺さった足の肉を裂き、目の前へと転がる
その時、さらに大きな叫び声の津波
薄れゆく意識の中。私が見た物は、彼の裂けた胸から肩
突き刺され、切り上げられた傷跡
それをあたかも、私が付けたかのように睨むサーベルの彼
なるほど、止めを刺そうと首に手を回していたのか。
手にはナイフを今にも取り落としそうに握っている
あまりに冷静な答えを出しながら、私は歓喜していた。
私は負けていなかったと、急いたサーベルの彼の負けだと
その答えを知った瞬間、私は再び逃げる事を決めた
この鬼ごっこに勝ったのだ、私はまだ逃げなければならないのだから
死に体を引きずりながら、私は砂利道を這いずってゆく
先には川の音。なんと、これはちょうどいい
三途の川下りとでも洒落込もうか。
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