三途の川クルージング。

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どれだけの時間、川を下っただろうか 川縁に流れ着いていた木にしがみつき、私は川を下っていた いやに感覚が鋭くなってる 死に行くときには感覚が鈍るものだと聞いた この分では、私は死にそうにはない。 「はは、……死にはしないか。  悪運が強いのだな、私は」 自嘲気味に笑う。周りには魚以外は何もいない そう、独り言だ。生きている事の確認なのだ。 私はようや力がはいるようになった瞼を開き、世界を眺める いやにくすんだ空色と、新緑の生吹く川沿いの並木 見慣れたような世界を、見慣れない角度から見ていた しばらくして、ふと思う このままでは海に流れ着くではないか。 海につけば、塩水が容赦なく傷を裂くだろう そんなのは御免被りたい まだ、全力など出せそうにはない足 それで水を蹴ってみる。 その度、サーベルの彼に付けられた傷が痛む それもそうか。私はあの後、手ぬぐいを足に巻いただけ 他は傷の処置などしていないのだ。 また裂けてもおかしくはない まずは、どこかで傷を癒さねばだ そう思いながら、痛む足で水を蹴り続けた。 しばらくして、苔むしたコンクリで固められた岸へとたどり着いた私 上がれる高さではなさそうだ。 何か妙案でもないものか、周りを見渡すと ちょうどいい。少し下った場所に、階段状に加工された場所がある そこを目指して再び川を下った しかし、そう上手くもいかなかった。 辿り着いたその場所に、少女がいたのだ。 歳は十代になったばかりと言えようか。幼い少女だった。 この歳の娘が、私の傷を見れば泣き叫ぶであろう 人が集まると困るが。しかし、切り伏すにも気が引ける。
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