三途の川クルージング。

4/6
前へ
/10ページ
次へ
「ケガしとんの」 私に怯えるどころか、私を指差す少女 後ろを振り返り、誰かにそう言った 彼女の視線を追えば、そこには大柄な男 『ヒト』ではないであろう彼は、武器を構えた私に怯まずに近寄ってきた 「こりゃあ、大変じゃあ。すぐに治療せにゃあ  ほれ、背に乗りんて。大事になっちまう」 それどころか、私に背を向けて乗れと言うのだ どうした事かと考える私の背を、少女が軽く押した 普段なら揺らぐ事もないはずの力に、私の世界は揺らぐ それほどに衰弱していたらしい 「いのち、預かるだわ。安心せい、取って喰いやしりゃせん」 「急がんと」 刀から手を離さない私に、大柄な男は言う 知りもしない人間など、信頼できるものか 鞘と柄に当てた手を、男の背中にあて、身体を引き離そうとした しかし、おぶさられた私の弱った力ではどうにもならない 「ちょいと揺れるが、気にしんさな。痛むのも少しだて」 そう言うと、立ち上がって駆け出した男 早くはないその速度、少女を気遣かってか、巨体には似合わなかった 男の背中に負われるまま、私は木々に占拠された石街を走る 石街とは、昔々に、私達の先祖が住んだとされる角ばったコンクリ作りの建物の街だ 今は、緑に占拠されて見る影も無い その間を飛び抜けるような巨人の足は、小さな地鳴りを巻き起こして、小鳥達の安眠妨害 私は、少々乗り心地の悪い背中から抜け出すのは諦め 流れゆく町並みを眺めていた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加