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「ケガしとんの」
私に怯えるどころか、私を指差す少女
後ろを振り返り、誰かにそう言った
彼女の視線を追えば、そこには大柄な男
『ヒト』ではないであろう彼は、武器を構えた私に怯まずに近寄ってきた
「こりゃあ、大変じゃあ。すぐに治療せにゃあ
ほれ、背に乗りんて。大事になっちまう」
それどころか、私に背を向けて乗れと言うのだ
どうした事かと考える私の背を、少女が軽く押した
普段なら揺らぐ事もないはずの力に、私の世界は揺らぐ
それほどに衰弱していたらしい
「いのち、預かるだわ。安心せい、取って喰いやしりゃせん」
「急がんと」
刀から手を離さない私に、大柄な男は言う
知りもしない人間など、信頼できるものか
鞘と柄に当てた手を、男の背中にあて、身体を引き離そうとした
しかし、おぶさられた私の弱った力ではどうにもならない
「ちょいと揺れるが、気にしんさな。痛むのも少しだて」
そう言うと、立ち上がって駆け出した男
早くはないその速度、少女を気遣かってか、巨体には似合わなかった
男の背中に負われるまま、私は木々に占拠された石街を走る
石街とは、昔々に、私達の先祖が住んだとされる角ばったコンクリ作りの建物の街だ
今は、緑に占拠されて見る影も無い
その間を飛び抜けるような巨人の足は、小さな地鳴りを巻き起こして、小鳥達の安眠妨害
私は、少々乗り心地の悪い背中から抜け出すのは諦め
流れゆく町並みを眺めていた。
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