君知

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僕は知ることを恐れています。 興味に関心に身を任せて、貪欲に物事に食らいつく。 接近して、捉える。 それは好奇心という本能的な欲望を満たす、魅惑的な活動です。 しかし 知り尽くしてしまえば、あとは忘れていく一方なのではないでしょうか。 対象は移り、さらなる関心に走り、過ぎたものは片隅へ追いやられ風化するのみなのです。 僕にはそれが怖い。 誰しもきっと経験しただろう忘れていく恐怖。 理知的で残酷で優れた忘却という機能 従って人に近づくことにもそれは通じるのです。 「それは非常に美大生らしからぬ発言ね」 君は呆れさえ垣間見える表情で言うのです。 「知り尽くしたならいよいよそこからじゃない。新しく創り出せばいいのよ。」 目の前に立ちはだかる壁というものは時に脆く薄いものです。 それに気付かずにわざわざ乗り越えようとした僕を引きずり戻して君は事も無げに壁を瓦礫にしてしまいますね。 障壁を失った僕の剥き出しの心は もうたまらなく君を知りたがってしまっているようなのです。
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