快適な家

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佐藤愛奈20歳。彼氏ナシ。むしろいらないくらいに思っている。 実家暮らしという、楽々快適生活に気付いてから、彼女は僕に一切男の話をしないんだ。 最後に彼女の口から、好きな人の話を聞いたのは…いつだろう。あの時彼女は毎日僕に、その日の話を聞かせてくれたんだけどなぁ。 「フニャ! 聞いてよ~。今日ね、ハゲ店長に怒られたぁ!」 最近彼女が話してくれることと言ったら、仕事のこと。それも愚痴ばっかり。まだ就職して一か月も経たないのに、大丈夫? 僕は言葉の代りに、彼女の顔をパンチしてやる。 僕と彼女は、猫と人間という根っからの違いで会話にならない。いつだって彼女か僕の一方通行の会話だ。 僕はフニャ。佐藤家の飼い猫。愛奈に拾われて、もう7年、この家で暮らしている。 フニャって名前も、愛奈が付けてくれたんだ。彼女に出会った時、僕はまだ子供でフニャフニャ泣いてるからって。ちょっと格好悪いけど、決まったものは仕方ない。どんなに文句を言ったって、伝わらないんだし。 佐藤家はお父さんお母さん、愛奈、愛奈の妹千奈の四人暮らしだ。みんな猫好きで、僕は二代目だ。僕や僕の前に飼われてた猫の爪痕が、この家のあちこちにある。僕は中でも、愛奈の部屋の柱がお気に入りだ。だからかはわからないけど、僕は愛奈が一番好き。彼女が家にいるのは、とても嬉しいこと。 …だけど最近愛奈、ぐぅたらし過ぎてないか? 愛奈は毎朝8時に家を出る。たまにお昼から出かけたりするけど。それで19時くらいに帰って来るんだ。お母さんの作ったご飯を食べて、お母さんが沸かしたお風呂に入って、お母さんが干してくれた布団に寝る。もちろん昼のお弁当も、お母さんが作る。着る服もお母さんが洗濯する。唯一お母さんがしないのは、愛奈の部屋の掃除くらいだ。 愛奈は『楽』が好きだ。通勤こそ、ちゃんとして行くけど、家に帰れば安売りのスウェット上下に、変なゴムで髪をグチャグチャに纏めてゴロゴロしてる。休みだって変わりない。部屋も汚い。20歳の女の子にはあるまじき姿だ。 対照的に、妹の千奈は高校生だというのに学校にも化粧してくし、休みにはおしゃれして朝から出かけて行くし、部屋も汚くはない。ついでに言えば、彼氏もいる。 愛奈、大丈夫?
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