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「フニャ~いってくるね。ふぁ~ぁ。」
僕は毎朝玄関までみんなを送る。そんで夕方はまた、玄関で出迎える。
愛奈は毎回僕を撫でてくれるけど、眠いか疲れた顔。昔は違ったな。元気いっぱい、それに笑顔。
「愛奈、彼氏作らないの?」
僕の代わりに、お母さんが愛奈に聞いた。お母さんも、心配みたい。よく一人言で言ってる。
「作る気にもならない。面倒臭いもん。」
愛奈はお母さんの方を見もしないで、冷凍庫から掘出したアイスを食べている。
「フニャ、おいで。」
僕を呼び、自分の部屋に入ると『よーいしょ』て座るんだ。もちろん立つ時も。
今日はどんな愚痴だろう。僕は、座ってベッドに寄り掛かった愛奈のあぐらの上に丸くなった。
「仕事、辞めた~い。パートのおばちゃんは厳しいし、ハゲ店長は気持ち悪いし。」
はぁーっ!! 大きなため息が僕の毛を揺らす。
愛奈、早いよ。まだ研修も終わってないじゃん。僕なら喜んで働くよ。だって僕、この家から出たことないし。外には病気を持った動物も多いし、ケンカしたりする。だから僕は外に出れない。嫌じゃないし慣れたけど、やっぱり外の空気を吸いたい時もある。
自由に出られるのに、家にばかりいる愛奈に少し腹が立って、アイスを一口かじってやった。ミルクの匂いに釣られてみたけど、つ、冷たい…。
「お姉ちゃん!! あたしのアイスを食べないでよね!」
千奈が怒って愛奈の部屋に飛び込んできた。愛奈はヘラヘラと笑いながら謝った。そんでやっぱり、お母さんに買ってきて貰おうと一人言を言った。自分で買って返しなよ! 僕は冷たいのは苦手だけど、もう一度アイスをかじった。
「フニャ、アイス冷たいじゃん。ダメ!」
愛奈はペチッと僕の頭を叩いた。言葉が通じない上に、人間は大きいからずるいよなぁ。僕だって、愛奈をペチッと叩いて叱りたい時もあるんだぞ。
最近の愛奈、あんまり好きじゃない。僕は彼女の部屋を出て、リビングで寝ることにした。この家のドアはどれも半開きだ。僕が好きな時に好きなだけ出入りできるようにしてくれてある。
千奈の部屋を通り過ぎようとすると、中から猫撫で声が聞こえてくる。僕は足を止め、中を見た。千奈は携帯で誰かと話している。たぶん栄だな。
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