54人が本棚に入れています
本棚に追加
「フニャ、いってきまーす。」
ナデナデ。ゴロゴロ。
六月に入ってから、梅雨も近いせいか空はどんよりした日が多い。愛奈の部屋の窓辺に寝そべりながら、僕は愛奈について考えた。
最近の彼女は機嫌がいい。朝だって出かける時に、いっぱいナデナデしてくれる。顔も明るくなってきた。これはまさか…。僕は愛奈に彼氏ができたのかとも思ったけど、やっぱりないだろうな。相変わらず家ではゴロゴロだし、何よりこの部屋! 彼氏がいる女の部屋じゃない。
「フニャ、ただいまー。」
愛奈は疲れて帰ってきた。でもやっぱり、前とは違う。
「フニャ、仕事って楽しいこともあるんだね。あたしは初めて思ったよ。」
愛奈は風呂から出ると僕を呼び、部屋でジュースをゴクゴク飲み干すと笑った。
仕事が楽しい!? 愛奈の口から出た言葉に、僕は耳をピクピク、目をまん丸くして彼女を見た。
「ペットとペット用品を扱う売場になったんだけど、子猫や子犬がかわいいの!」
なぬ? 僕は目を細める。それに気付いたのかわからないけど、愛奈は言った。
「フニャもかわいいいよ! けどさ、子猫なんか見てると、思い出すんだぁ。フニャを拾った時のこと。」
また彼女は思い出しているようだ。天井を見上げて黙っている。
僕は、まだ目も開かない頃に彼女に拾われた。僕の兄弟もいたみたいだけど、愛奈が拾って帰ろうか迷っているうちに、一匹二匹と拾われて、僕だけが残っていたらしい。
愛奈はその時のことをよく謝る。ごめんね、早く拾わなくって。
僕はよく覚えていない。でも中学生の愛奈は、僕を一生懸命育ててくれた。まぁ、テストの成績が悪いと、たまにそれを理由にしてたけどね。
「お姉ちゃん!! 部屋を今すぐ掃除して!!!」
僕たちが浸っていると、千奈が怒鳴り込んでくる。僕はびっくりして飛び退いた。
「栄ちゃんが来るの~!」
千奈は、明日彼氏の栄が初めて佐藤家にやってくるのに、この汚い部屋が丸見えなのが困るのだと言う。
愛奈は階段を上がると千奈の部屋が先にあるため、見えないからいいじゃんて開き直った。
しばらく言い合いをしていたけど、千奈は諦めたらしく、「だから彼氏できないんだよ!」と掃き捨てていなくなった。
愛奈も「うっさいメスブタ!!」なんて返して…おいおい。
最初のコメントを投稿しよう!