桜の木…

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「……」 私は、終始無言で桜の木を見ていました。 本当に、綺麗だと。 「なぁ綾香」 「はい、なんでしょう」 「来年も……また一緒に見ような」 「そうですね、ここの桜は立派で綺麗ですし。あ、でもやっぱり一本だけって言うのは……」 そこまで言うと、突然唇を塞がれ、びっくりしました。 「ん……」 「んんっ……」 数秒……いえ、数分だったかも知れません。 祐司さんの唇が、私から離れました。 「……ぷはぁ、祐司さんいきなりじゃ、びっくりするじゃないですか」 「ごめん、その、桜と綾香を見てたら……つい」 「ついってなんですか、ついって」 「ごめん」 「人に見られたらどうするんですか?」 「……その台詞、お前が言うのか」 「祐司さん、私は怒りました。この怒り、どうしてくれましょう」 本当は怒っていない。 むしろ嬉しかった。 なので、また意地悪をしたくなったのです。 「祐司さん、それじゃあ今から言う事を絶対にやってくださいね」 「絶対に?」 「そう、絶対にです」 「まさか、一生綾香家の執事をやれ! とかか?」 「……それはそれでいいですね」 「綾香様、ご勘弁を!」 「ダメです。それじゃあ言いますよ」 祐司さんは「執事は嫌、転校は嫌、殺されるの嫌……」とわけの分からない事を呪文のように唱えています。 執事はともかく、私が祐司さんを殺すわけないでしょう。 私は軽く呆れ、そして笑いました。 「……何笑ってるんだよ」 「いや、祐司さんが余りにも面白くて」 「こっちは面白くもなんともないんだよ! さっきから生きた心地がしねぇ!」 「そんな大げさな」 「大げさって、それより早く言えよ」 「そうでした。では言いますね」 そう言うと私は、一度深呼吸をし、祐司さんを見つめながら言葉を放つ。 「ここに、宣言します」 「白凰院綾香、もとい山田ヨネが命ずる」 「祐司はこの伝説の桜の木に誓って……」
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