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最近沙夜は何かというと華夜さんは、と言うから。
全然関係の無い話でも最後には「でも華夜さんは…」。楽しそうだったり、嬉しそうだったり、大抵は笑顔で。
そして私は不機嫌になる。
お前の母親の妹の話なんて、私の知ったことか。
いまだにペラペラ喋り続けている沙夜を無視して、そろそろ昼休みが終わりそうだな、と壁の時計をみたら、すぐ下に立っていた奴と目があった。
どうやらずっと沙夜に話し掛けたかったらしい、沙夜の方を見ながらこっちに歩いてきた。
こいつ……何だっけ。
沙夜の事が好きな……広瀬だっけ?
態度が余りにも分かり易いので、良く沙夜と一緒にいる私はかなり前からこいつが沙夜に惚れている事に気付いていた。
沙夜はどうだか知らないけど。
近づいてくる広瀬を私は嫌な物でも見るような目で睨んでやった。
沙夜は気付かずまだ喋り続けている。
……前から良く来るんだって、そのにゃんこ。沙夜は今日はじめて見たんだけど…白くてデカくてなんか化け猫みたいなの……
教室中がなんだか静かな気がした。
全員が私達を見ているような気が。
私はいきなり沙夜の鞄からさっきの本を取り出し、沙夜の頭を思いきり殴りつけた。
…………!?
鈍い音がした。
その場にいた全員が、驚いて私を見た。
広瀬も、他の奴も。
無表情で沙夜を見ると、驚いた目で見返してくる。唇から血が出ている。
頭を殴ったんだか顔を殴ったんだか覚えて無いが、辞典と云うくらいだから結構な重さだろう。
痛かったろうな、と沙夜を見ながらぼんやり思った。
「大丈夫!?沙夜ちゃん」
一番近くにいた広瀬が沙夜に話し掛ける。
「うん……大丈夫……大丈夫だよ……」
でも沙夜は広瀬じゃなく私を見ながら、ポツポツと呟いた。
誰かがティッシュを持ってきて沙夜に渡した時も、それを唇にあてたままじっと私を見上げていた。
顔がいつもより青ざめてる気がした。
嗚呼、本当に、痛かったんだろうな。
ごめんね沙夜。
私は無言で騒々しい教室から逃げ出した。
あいつらと一緒に居たくなくて。
沙夜にじっと見られるのが嫌で。
私と沙夜がお互いを見ているところを、あいつらに見られたくなくて。
静かに教室のドアを閉めた時、中から声が聞こえた。
なにー?あれー?
本上怖ぇー
だいじょぶ沙夜ちゃん?
保健室行こーよ
いつもなら、私が教室を出れば沙夜も金魚のフンのように後からついてくる。
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