第一話

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太陽の馬鹿がありえないくらいジリジリと照っている。 鬱陶しくて目をつぶったら、ますます暑くなったような気がして目をあけた。 夏なんかくたばれ、と舌打ちしたら沙夜が笑いながら振り返った。 「夏とかは別に死なないよ」 うん知ってる。でもこいつは何がそんなに楽しいんだろう。 もしかしたら夏が好きなんだろうか。信じられない。さっきから嬉しそうに、階段に座って足をぶらぶらさせながら太陽を見上げている。 「ねえ蘭ちゃん」 「なに」 「赤ちゃんできたらなんて名前にする?」 「はぁ?」 「赤ちゃん」 「なにそれ」 「だって考えるのたのしいじゃん、そういうの」 「別に楽しくないよ、気持ち悪い」 そうかな、とまた楽しそうに笑った。 ほんとに何が楽しいんだろう、私はもう声をだすのもうんざりしてるのに。 沙夜が動くたび、長い髪が階段を擦った。 腰まであるからかなり邪魔だろう。 前に夏なんだし暑いし切ればと言ったら、一年中この髪型だから気にならないし、夏になったからって切るのは変だと言われた。そうかもしれない。でもどうでもいい。 今は授業中だ。移動中に廊下の窓から太陽の光が見えて途端に何もかもうんざりしてさぼることにした。 こいつは勝手についてきたのだ。沙夜も、と勝手に手をつなぎそのまま私の手をひっぱって外に出た。 私は涼しくて暗いところに行きたかったのに。 それからもうずいぶんここに二人で座っているけれど誰も探しにこない。 当たり前だ。探しにこられても困る。 「そろそろ行こうよ」 立ち上がりながら声をかけるとうん、と頷いて階段を上がってきた。 邪魔な髪がゆらゆら揺れて、本当に暑苦しそうだと思った。私も長いほうだけど中途半端な茶色が嫌で黒いままにしている。 沙夜はアプリコットみたいな明るいピンク系の茶色に染めていて、それはそれで似合ってると思う。 沙夜はいつも笑顔だから。 とんとんとん、と跳ねるように歩いてきた沙夜は、 「蘭ちゃんはいつもふきげんそうだね」と笑った。 そうかな、そんなこともないけど。 ここのところずっと考えていたひとつの事を、沙夜に会ってからはあまり考えなくなった。 それって良いことなんだろうか、悪いことなんだろうか。 でもそんなことどうでもいい。 沙夜はいろんな事がどうでもいい私が、どうでもいいけど好きなもののひとつだ。 だから別に忘れてても良いのだと思った。 今のところは。
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