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第二話~沙夜~
お家に帰ったらまだ華夜さんは帰ってきてなかった。
帰っても誰もいないのはなれてるけど、いないひとが違うだけでなんか変な感じがした。
華夜さんが沙夜のために空けてくれた、二階の自分の部屋に行くまえに、金魚にえさをあげようと居間に行った。
いまどき金魚飼ってる家もめずらしい。グッピーとかなんか長い名前の熱帯魚とかじゃない、うしろのひらひらが綺麗な、紅い金魚だ。
最近は帰ってきたら、この金魚にえさをあげるのが日課だった。
華夜さんはなんにも言わない。もう沙夜の仕事だと思ってるみたいだ。
でもそういうの、ちゃんと決めといたほうがよくないかな、と思う。
ふたりとも忘れていて、殺しちゃったりしたらかわいそうだ。
まるい粒のえさを追って、ゆらゆら泳ぐ金魚に、今日も蘭ちゃんはつまらなさそうだったよと言ってみた。
蘭ちゃんも金魚を見にくればいい、そしたらすこしは楽しそうにしてくれるかもしれない。
蘭ちゃんはいつも不機嫌で無愛想ですぐに髪をひっぱったり蹴ったりするけど、沙夜は蘭ちゃんのそういうところがわりと好きだ。
蘭ちゃんはこっちにきてから、初めてできた友達だ。
亜夜が死んだのは、今年の1月だった。
会社から歩いて家に帰る途中で、トラックにはねられたらしい。
らしいというのは沙夜はそうは思っていないからで、ほんとは亜夜は自分から飛び出したんだと思う。
べつに普段からそういうことをしそうな母親というわけじゃなく、なんとなくそんな感じがしただけだ。
亜夜が死んだとき、病院のひとやおまわりさんに、お父さんやほかの家族の連絡先はと聞かれた。ちょっと困った。
亜弥には親も実家も親戚も、友達もいなかったから。
亜夜の夫、つまり沙夜のお父さんとはいちども会ったことない。
亜夜に聞いても、覚えてない、そもそも父親が誰かも分からないかもみたいなことを言ってた。
でも母子家庭ってそうゆうものだと思ってたし、ずっと亜夜とふたりだけでも、べつに気にならなかった。
だから華夜さんのことをすぐに思い出さなかったのも、いま考えると変なことだけど、そのときはそれがふつうだった。
ハッとして、そういえば亜夜には家族がいた、妹さんがいましたと言ったらじゃあすぐに連絡しなさいと言われた。
華夜さんと話すのは、何年かぶりだった。
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