第二話~沙夜~

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そういえばあのときはもう真夜中だった。 起こしちゃうかもしれない、なんて言おうかと考えた。 華夜さんがはい、と電話にでたとき、亜夜とおんなじ声だと思った。 「おはよう」 きっと起こしちゃっただろうから、そう言った。 ぼんやり水槽をみていたら、いつのまにか空が真っ赤だった。 亜夜とふたりで住んでたマンションでは、窓から夕陽が見えることなんてなかった気がする。 ここの家はほとんどの部屋が和室で、沙夜の部屋も畳だった。 畳の部屋で寝起きしたことなんてなかったから、最初のうちはなんだか天井がやたらと遠くに見えた。 そろそろ着がえよう、と鞄をもって立ち上がった。 帰っても勉強なんてしない。宿題はでたような気がするけどそれもやらない。 蘭ちゃんも勉強しない子みたいだけど、沙夜とはまたべつの理由からだと思う。 それに蘭ちゃんはしなくても成績はいい。 突然携帯がなって、あわててポケットから出したら華夜さんからだった。 「沙夜ちゃん?」 「こんにちは」 「こんにちは。もう帰ってきたの?」 「うん」 「たまにはお友達と遊んできたらいいのに」 「うん」 「今日、ちょっとご飯つくる時間が無さそうなの。何か買って帰ろうと思うんだけどいい?」 「いいよ」 「何か食べたいものある?どうして笑ってるの、沙夜ちゃん」 「ううん。亜夜とおんなじ声だなぁって」 「そう?」 「なんでもいい、カップラーメンとかでもいいよ」 華夜さんは、でもそういう訳にもいかないから、みたいなことを言いながら電話を切った。 晩ご飯になにを食べたいかわざわざ電話してくるなんて、まるで母親みたいだと思って、笑った。 やっぱり華夜さんと亜夜は似てないな、 おんなじなのは、声だけだなと思った。 .
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