第三話~蘭~

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途端に煙草とコーヒーの香りが混ざり合ったような、よどんだ空気が流れてきた。 この部屋の匂いだ。 もう嗅ぎなれた。 靴を放り投げるように脱いでいると、篠乃さんがにやにやしながら出てきた。 「あんたなんか階段で騒いでたでしょ?ここまで聞こえてるっつの」 「別に。舌打ちしただけだよ」 「暴れてなかった?」 「壁に当たってただけ。それより鍵しめたら。いくら田舎だからって、今どき」 篠乃さんはハイハイと笑いながら、台所に入って行った。 私は勝手に上がり込み居間のソファにだらしなく倒れ込んだ。 「疲れた…」 「あんた本当そればっかだね。若いのに、かわいそう…」 「篠乃さんこそギリで三十路前なのにすでにオヤジ臭とか…可哀想」 言い終わるか終わらないかのうちに、いきなりスリッパで頭を叩かれた。 信じられない。 これが25過ぎた女のやることなのか。 「そういえばさぁ…」 「…何」 顔をあげるのも面倒で、目だけを篠乃さんに向けた。 篠乃さんはパソコンの前の座椅子に、あぐらをかいて座っていた。 「沙夜ちゃんって娘のお母さんって」 「…沙夜?」 「あんたの友達の」 「いや、それは分かるけど…。 …沙夜が何?」 「自殺しちゃったんだってね」 「あぁ……噂になってた。来たばっかの頃」 私は身体をおこしてソファに座った。 .
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