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テーブルの上に、篠乃さんがいれてくれたらしいアイスコーヒーが置いてある。
ストローで回しながら顔の近くまで持ってきた。
ひんやりする。
「じゃあみんな知ってんの?虐められたりとかしないの?」
「てかあいつ馬鹿だから虐められても気づかないし」
「ふーん…」
篠乃さんは気の無さそうな返事をして、煙草に火をつけた。
パソコンの画面をみながら、座椅子の背もたれにもたれかかって、なんだかぼんやりとしている。
私は気になった。
「何で?近所で何か言われてんの?」
「あぁー…そうじゃないよ。ネットで調べてみただけ。新聞とかじゃ事故って載ってるらしいけど、多分コレ自殺だよねー…。見てた人の話もなんかそれっぽいし」
「そうじゃなくて」
「?」
「何で篠乃さんが沙夜の親のことネットで調べる訳?沙夜に興味あるの?」
別に怒った訳じゃない。
理由が知りたかっただけだ。
でも篠乃さんにはそうは見えなかったらしい。一瞬だけ驚いた顔で私を見た。
そして直ぐに笑った。
「別にあんたに内緒でコッソリ沙夜ちゃんと仲良くしようとか思ってないからさぁ。安心して、蘭」
「そうじゃない」
「ちょっと気になっただけ」
「…何が」
「あんた最近あんまあの話しないじゃん?」
私は一瞬固まった。
多分、遠くを見てたろう。
篠乃さんがじっと私を見ていると気付くまで、少し間があった。
そうだった。そういえば。
そもそもこの煙草臭い部屋に入り浸るようになったのも、篠乃さんが話を聞いてくれるからだ。
忘れてたわけじゃない。でもそれと沙夜となんの関係が?
「だってあんた最近沙夜ちゃんの話ばっかしてるでしょ。ここ来ても。まぁあたしは別に良いんだけど」
だからどんな娘か気になっただけ。
そう言って、また新しい煙草に火を付けた。
沙夜ちゃんの話ばっかり。そうだろうか。
そんなに沙夜の話ばっかりしてた?
そうかもしれない。
「そうだよ~今日はあの馬鹿がこんなことしたとか、訳分かんないからあのチビとかさぁ…」
「…」
「あたしは沙夜ちゃんの奇行を聞くのおもしろいから良いんだけど…でも」
「でも何」
「蘭が自殺ネタ提供してくんないと話書けないじゃん」
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