序章・雨

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忘れられない記憶。 それは、誰もが心の内に秘めているモノ。 喜びであれ悲しみであれ、幸福であれ不幸であれ、価値のあるものであれ価値の無いものであれ……それが何であれ、その記憶を忘れる事はなく、人は生を歩む。 時にその記憶に支えられ、時にその記憶を呪いながら。 俺にもある。 忘れられない、過去の記憶が。 何度、忘却の彼方に追いやろうとした事か知れない--。 しかし、それが無理だという事は、自分自身が知っている。 瞼の裏、鼻孔の奥、鼓膜の片隅、五感の全てが、あの悪夢を記憶しているから。 意識の届かぬ無意識の階層に刻まれた古傷。 あの日は……そう。 冷たく、この身を刺し貫く刃物に似た。 --そんな雨が降っていた。 ・
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