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雨……
降り止まぬ雨……
灰色の空と灰色の地面……
降りしきる雨粒が体温を奪い、冷え切った身体はぬかるんだ泥の海に横たわる。
天の恵みの雨も、今は氷のように冷たく、刃物のように身を突き刺す、凶器にしか感じない。
「ヒック……グス」
ふと聞こえる誰かの泣き声。
視線を移した先には、両手で顔を覆い、泥の海にうずくまる少女の姿。
悲鳴をあげる身体を動かし、俺は少女の元へ歩み寄る。
そして、その細い肩に手を回し、自分の胸に抱き寄せた。
「……ねぇ、みんなは?」
「ジェシカは? オードリーは? クリスは? グレンは?」
「どうして……どうして、だれも動かないの?」
寒さと、込み上げるどうしようもない感情の奔流に震える少女。
「ねぇ、どうしてこうなっちゃったの?」
俺は少女の後ろに視線を移す。
吐く息は白く、霞の様に目の前の現実を一瞬覆う。
嘘であれば良いと思った。
何かの見間違いであれば良いと思った。
この霞が晴れたとき、全ては夢で、ベッドから天井を見上げて、タチの悪い冗談だと笑えれば良いと思った。
でも、現実は現実でしかない。
時に、どんな悲劇よりも残酷な結末を与えてくれる。
無邪気に笑う赤ん坊の胸に、何の躊躇いもなく刃を突き立てるように、限りなく無慈悲な結果を見せ付けるのだ。
それを受け止める奴の事なんか、考えもしない。
……つくづく思う、現実はとんだサド野郎だと。
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