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暗く冷たい部屋に
母の体は安置されていた。
先刻頭を過った最悪の場面は
現実となってしまったわけだ。
「母さん……」
呼び掛けても返事がなくて。
いつもの能天気な笑顔も、もう見れない。
医者の言葉なんか聞こえる筈がなくて
ただ立ち尽くしていた。
葬式も初七日も終わり、俺は
誰もいない家でぼーっとしていた。
いつもなら母が夕飯を作り出す時間。
「……っく、母、さんっ…」
どうしようもなく涙が溢れた。
病院でも、葬式でも
涙なんか出なかったのに。
「俺っ…ぅ、どうしたらいいか、
わかん、ねぇよ…っ!」
つらくたってきつくたって、
母さんがいたから耐えれたんだ。
あの能天気だけど優しい笑顔の為に
頑張ってたんだ!
だけど、もう、いない
気付けば俺は剃刀を握り締めていた。
「か…さん。待ってて、
すぐ、逝くから」
目を瞑り手首を斬り付けた……
のに、痛くない。
そっと目を開けると、そこには
俺が持っていた筈の剃刀を持った
緑の髪の男の人がいた。
「…魂を無駄にするな。
貴様が自害したところで
母親と同じ所へは逝けぬぞ。」
その言葉にまた泣きそうになった。
もう嫌なのに、楽になりたいのに。
どうする事も出来ない現実に
唇を強く噛んだ。
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