2人が本棚に入れています
本棚に追加
『どうしよう。早くあいつに相談しなきゃ。、早く帰ってこないかな。』
ボクは彼が帰ってくるのを待っていた。
『ただいま。今日は駅前で美味しいたい焼きが売ってたからさ、オマエにも買ってきたぞ。食べるかぁ。』彼が玄関先からそう言っているのが聞こえた。
『あっ、帰ってきた』
いつの間にか、ボクは完全に彼を頼りにしていた。
『ねえ、ねえ。大変なんだ。ボクの身体が変なんだ。身体が黒ずんでさ。力が入らないだよ。どうしたんだろう。』
『……』彼は無言のまま、ボクを見つめていた。
『どうしたの?』
堪らずそう言ったボクを見詰めながら彼は無表情に、いつもとは違って、丁寧な口調で言ったんだ。
『遂に、この日が来たんだね。』
『お別れの日だよ。』
心なしか嬉しそうに彼は言葉を続けた。
『オマエはもうオマエじゃないだよ。オマエは自分を捨てたんだ。あの日からね。
だからね。これからは、俺の影になるんだよ。その身体が黒ずみ始めたってことがその兆候だよ。諦めてなよ。もうオマエは、おしまいさ。』
ボクは唖然としながら不気味に笑みを浮かべる彼を見すえた。
『そんな…ただ、ボクは、疲れていただけなんだ。なのに…こんなことって、君のこと信じていたのに…、ああ…』
言葉を続けようとしたけれど、僕の身体の半分以上は黒なり、もう首の辺りまで来ていた。
もう言葉が出てこない。
『もう終わりだな…
オマエの代わりに過ごした日々は本当に楽しかったよ。
さよならだ。あとは俺に任せな…上手くやるからな。安心しな。』
彼の言葉がボクのココロを凍らしていく。
僕の意識は少しずつ、確実に薄れていく。
そして…、なにも聞こえなくなった。
ある日、俺はいつものようにベッドで目を覚ましたんだ。目覚まし時計は午前6時、
朝焼けの空は赤から青へと変わろうしていた。
今朝は、なんだか身体が軽く調子がいい。
ベッドを飛び起き、素早く着替えを済ませて
ゆっくり朝食をしてから仕事へと出かけた。
『ああ、きょうはヤケにいい天気だよなぁ、よし、今日も頑張るか。』
掛け声と共に駆け出した俺を追うように黒く伸びる影が朝日に照らされ切なく道に映して出されていた。
最初のコメントを投稿しよう!