行間:アキラという男

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「心は、ねぇ」 しれっとした顔でいう奴の中身を、俺は知ってる。 心に あざがある。 それが何を意味するか、俺だって解らないはずがない。 いくら俺が、幸せな人生に育っていたとしても。 知識としては 知ってる。 「また書けなくなった?」 「まあ、そんな感じ。このままじゃ深咲さんに迷惑かけるよ」 深咲さん。はアキラの担当だ。 ああ、言い忘れたがアキラは小説家だという。 「原因は? 例の如く、それさえ解れば書けるんだろ?」 「解んない。覚えがない」 「なんだそれ」 「気付いたら書けない。そういうの、ない?」 「…………」 「書けない。書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない書けない。 どうしたらいいかも、解んない」 「落ち着け。パニックになるんじゃない」 「ん、あ。ああ、なってた?」 「ゲシュタルト」 「う、ごめん」 書けない。なんて言葉でゲシュタルト崩壊(同じ言葉を見ているとその文字がなんだか解らなくなる現象だ)を起こすとは。 ったく、いつになっても悪いくせが治らない。 こんな癖を覚えたのも、奴が2年もここに居座っているせいだ。 「とにかく、適当に話していればきっかけが解るかもしれんだろ」 「うん」 そういうことになった。  
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