日めくりカレンダー。あと3枚

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一枚目。 僕の住むきみどり荘のお隣に住んでいるじいさんはいつも寝ている。 眠ってはいない。 白いパイプベッドに横になり、白い掛け布団をかぶっている。 眠ってはいない。 僕の部屋はアパートの一番北側で、向こうには住宅街。 だからじいさんの部屋の様子がよく見える。 じいさんは黄色い肌の色をしていた。 きっと、ミカンを食べ過ぎたんだろう。 気分が悪くなるほどに。 だからいつも寝ている。 窓越しにじいさんがこっちを向いた。 まだ咲きそうにない桜のつぼみをみつめ、ため息。 そのとき、僕と目があった。 じいさんはそっと手を伸ばして窓をあけ、僕に話しかけてきた。 ミカンの食べ過ぎだけにしてはか細い声だと僕は思った。 「今日はあったけぇなぁ?」 思ったより乱暴な言葉遣いだった。 「そうだね。三寒四温じゃない?」 「あァ、昨日は冷えたかんなぁ」 「うん」 「そうかそうか、もう三寒四温…春がきたのか」 「年をとると大人はみんなそう言う」 「かかかか」 「おかしい? …じいさん、今いくつなの」 「俺か? 今年で96だ。 …俺も大概しぶとい」 寝たきりじいさんはかかかかっと笑った。 入れ歯がカタカタしていたのが、僕には見えただけだ。  
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