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長靴は本名がとても長いので、住所録にも名前は長靴と書いています。
名字は緑色といいます。
みどりいろ ながくつ、と読みます。
長靴は人ではありません。
ドワーフと呼ばれる人ではない生き物の種類で、大雑把にいうと土の精霊のようなものです。
とはいえ魔法が使えるわけではありませんので、長靴の生活は普通の人間と同じです。
長い耳以外、姿も人間と似ています。
長い耳は人間が驚くので普段は変装しています。
長靴には両親が居ませんので、義務教育を受けたあと長靴は知り合いに頼んで頼んで頼み込んで花屋の下働きをさせてもらっていました。
花屋の店主はすこぶる優しい人でしたので、長靴にも優しくしてくれます。
今日も仕事が終わると重たい鍋をくれました。
中には作りすぎた肉だんご入りのスープが入っていたのです。
お礼を言って、長靴は帰路につきました。
アパートの前で、2階の住人、三階堂という人間に会いました。
「やぁ、帰りかい」
「そうだよ、ただいま」
「お帰り。お疲れさん」
「ありがとう」
「そういや昼間、長靴に客があったぞ」
「え? …昼間って、三階堂、君いつ仕事してるんだい」
「俺じゃないよ、うちの居候が見つけたらしいのさ」
「ああ、あの黒猫くん」
「そ」
「でも僕に来客の予定なんか…。どんな子だったって?」
「白い帽子を被ってて、髪の片方が長かったらしい。
あぁ、あと片目を怪我していたらしいよ」
「怪我?」
三階堂は自分の右目をトントンと指で叩きました。
「眼帯、してたんだってさ」
それを聞いた長靴はさっと顔色をかえました。
「なに、心当たり?」
「うん。…で、その子は?」
「なんかさ、黒猫が話しかけたらすごい顔で睨んだあと、驚いて逃げたらしいよ」
長靴は苦笑いをしました。
三階堂も呆れたように頬を掻きます。
「ああ、黒猫くんは人間じゃないからねぇ」
「……ま、ね。で、どうする? 大丈夫なのか?」
「うん、またすぐ訪ねてくるだろうし、連絡手段もある。色々とありがとうね。黒猫くんにもそう伝えておいてくれるかな?」
「はいはいっと」
それで三階堂とは別れ、長靴は自分の部屋に入りました。
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