ひまわりは夜に咲かない話

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返事はありませんでした。 しかし構わず、長靴は先を続けるのです。 「でもね、凛くん」 ざぁあ、風が草木を抜けて走ります。 「ひまわりは夜には咲かないんだよ?」 ざぁあ、花壇に一輪だけのひまわりが形をゆがませました。 そしてやがて、ひとりの少年へと変わっていったのです。 「長靴っ!」 「?」 白い帽子に白いオーバーオール。 黒い髪は片方だけ長く伸びていました。 とても精悍な顔つきをした美少年で、人とは違うオーラを身にまとっているようにも見えました。 エメラルドグリーンの瞳と、眼帯をつけた右目。 そしてその耳は、長靴の本来の耳と同じように長く伸びていました。 「おバカっ! なんでもっと早く迎えに来なかったんだよ!」 「だって凛くんてば、僕の帰宅時間に来たりするから。 あの時間は忙しいんだよ」 「それはまぁ…悪かったけどさ」 「うん、僕もごめんね。…凛くん、久しぶりに逢えて嬉しい」 「俺も」 凛はくすりと笑いました。 長靴はにこりと微笑みました。 「この2週間、どこに行っていたの?」 「2週間じゃ遠くまではいけないから、東北温泉巡り」 「いいなぁ。楽しそう」 他愛ない世間話をつなげながら、長靴は凛を自宅へ招いた。 「食べていくよね? 布団、干してないから今日はベッド使っていいよ」 「うん。ありがとー」 歩きだしてすぐ、アパートの前で凛の足が止まりました。 「?」 「今度はさ、一緒に行こうよ。旅」 真剣な顔でした。 長靴もそんな顔で凛を見つめ返し、そして笑いました。 とことこ凛のところへ歩いて行って、突然鞄からピンク色した飴を取り出しました。 「うん、これから考える」 「…………。なんだよ、それ」 凛はやや不機嫌になって頬を膨らませましたが、しっかりその手で飴を受け取ります。 「さぁ、夕飯にしようか」 また、長靴の日常が始まります。 今度は、凛と一緒にです。           fin.  
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