第三章 大の字

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「よし、じゃあ行こう。」 心底嬉しそうに笑う雛多。 まぁこれが一番いいんだけどな。 「なぁ雛多。」 「何だ?」 「松葉杖とっていいか?」 「絶対駄目。」 あのな…。松葉杖してたら鞄もって歩けんだろ。 すると雛多が手を差し伸べてきた。 「鞄なら私がもってやる。」 そういう訳にもいかないんだな…男として。 「…いいよ。何とかして松葉杖しながら持つから。」 「あの…私が持ちましょうか?」 「えっ!?あっ。それはもっと駄目。」 「もっと駄目?」 雛多が微妙な違和感に気づく。 「君は私より椿の方がか弱くて女の子らしいといいたいのか?」 『はい。そうです。』なんて言えるはずない。 「いや、その、特別な意味は無いんだよ。本当に、うん。」 「…よかろう。怪しいところだが…執行猶予五年で釈放してやろう。」 うわ~執行猶予の時点で俺有罪じゃん。 「でも本当に歩き難いですよ?」 坂本さんが心配そうに呟く。 「もういい。本人が大丈夫みたいだからいいんだよ。行くぞ。」 そう言って雛多は歩き出した。 まったく、一々疲れる奴だな…。 さて…俺も行くか…そうだ。あっちはどうかな? 俺はさりげなく早美と淳の方を見る。 何やら喋っているが相変わらずいつもの淳らしくなさそうだ。 早美も手こずってるな。 そんな事を考えながら何とか鞄を持ち、慣れない松葉杖で雛多の後を追った。
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