第三章 大の字

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しばらくして雛多は西牧さんを連れて現れた。 「お待たせ。さぁ、行きましょ。」 雛多がまたしても嬉しそうに笑う。 「雛多…。少し元気でた。」 隣で西牧さんが呟く。 「お前もそう思うか?」 すると西牧さんはコクリと頷く。 しかしその後もなんか俺をじっと見てる。 「ど、どうしたんだ?」 すると西牧さんはスーッと手を差し出してきた。 その手には本が握られていた。 「太宰治。人間失格。」 西牧さんの口から平坦な声で作者と作品名がのべられた。 おそらく俺が太宰治を読んでみようかななんて言うからわざわざ持ってきてくれたんだろう。 「お、おう。ありがとな。」 俺はなんかその気遣いを無駄にしたくなかったので軽く礼をのべ、受け取った。 「おい。行くぞ。」 雛多がせかす。 まったく、そんなに急がなくてもいいじゃないか。 せっかく口数少ない西牧さんと話してたというのに…。 本当に疲れる奴だ…。 あいつ一回檻にでも入れておこうか。 しかし,逆らえるはずもなく俺はそのまま言われるままに雛多についていった。 それに檻に入れてもきっとあいつならばすぐ出てくると思う。 そう思うのは俺だけだろうか…。 .
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