序章─独り─・前編

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ィィィン 文字にするなら、こんな音だろうか、自分の意識が、目の前の少年の心の中に入るのがわかる。 エレベーターに乗った時の、浮遊感のような、なんとも表現しがたい不思議な感覚がする。 しばらくして目を開くと、そこは見慣れた占い部屋ではなく、曇り空の色をした広い部屋だった。 そう、これが私の生まれつき持っている能力。 人の心を一つの部屋にすることができる。 ここの部屋の風貌、物は全て、その人の性格や考えを表し、その人を形作っている。 「ここが、あの人の心か」 その部屋の壁や床には、細かいヒビが入っていてボロボロであり、小安の心の弱さ、脆さを物語っている。 ここの第一印象は、古ぼけた廃墟の一室。 と言ったところだ。 周りを見渡すと、床にはゲームやマンガ、雑誌などが無造作に散らばっており、本来十畳近くありそうな部屋が狭く感じる。 部屋の隅には勉強机があり、その上には少年が書いたと思われるマンガの絵がある。 その一つを取って、よく見ると、とても中学生と思えないくらい上手だが、不思議なことにその絵には人の瞳だけが描かれていない。
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