桜の下で

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唐突と言えばあまりに唐突な、しかしあまりに劇的要素の無い言い回しの男の一言が、サクラの中のスイッチを押した。 「…あ…っ!」 ある光景が鮮やかに脳裏に再現された。 自分はどこにでもいる、ごくありふれた存在で、ありふれた日々を積み重ねていくんだと、何となく思っていた日々が終わった日。 そうだ! 自分は、、会った事がある。 一度だけだが。 なのに、何故かとても懐かしい感覚に言葉が出てこない。 「そんな所に突っ立てんのもなんですから、こっちに来ませんか?」 男は自分の背後から、大きめの保温ポットと、紙コップを取り出すとサクラに示して見せた。 「温かいお茶くらい、御馳走しますよ?」 その時、男は確かに笑った。 それはとても穏やかな笑顔だった。
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