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「さぁ、こちらにどうぞ」
誘われるままにサクラはレジャーシートの端に腰を降ろした。
「まぁ一杯」
渡された紙コップに、大振りの保温ポットの中身が注がれ、じんわりとした温かさが手に伝わってくる。
「?!」
カップに半分ほど注がれたそれを見て、サクラは思わず絶句した。
青い、、
青いお茶というものは確かに実在する。
実際に茶道楽の知人にご馳走になった事がある。
だがそれはもっとナチュラルで淡い青だった。
今、目の前にある『それ』は絵の具を溶いたとしか思えない鮮やか過ぎる青だ。
『試さず後悔するより、試して反省』
を人生の信条の一つとしているサクラではあるが、さすがに今回ばかりは躊躇した。
いや、これを見て躊躇しない者はまずいないだろう。
「あ?大丈夫ですよ」
それと察したのか男は、自分の紙コップにも注ぐと、サクラの目の前でぐっと一息で飲んでみせた。
「ね?」
男の笑顔につられる様に一口。
「、、あっ!」
口に含んだ瞬間、独特だが不快では無い風味と清涼感が広がる。
ハーブを思わせる柔らかな香りが鼻腔の奥を優しくくすぐる。
初めての筈なのに何故か懐かしい。
気が付けば、一息で飲み干してしまっていた。
「、、美味しい!」
思わず漏らした言葉。
真似事とはいえ文筆業に携わる身で、あまりにも芸の無い一言だが、素直な感情から生まれた言葉だった。
「当家秘伝のハーブティーです。
秘伝ですから、材料等の御質問にはお答えいたしかねますがね?」
柔らかな物腰。
ふちなし眼鏡の奥で細められた瞳には、どことなく得意げな光が宿っている気がした。
「どうです?もう一杯」
「あ、いただきます」
先程より、少し多めに注がれたそれを、今度は少しづつ味わいながら口に含んだ。
口元から、温かさが全身にじんわりと広がっていく。
包まれる様な優しさを感じながらサクラは、大きく一息ついた。
………
「この辺りは江戸時代からの名所でしてね」
「なるほど」
「そうそう、そのロープが張ってある辺りに昔、展望台があったんですよ」
「えぇ?そうなんですか?」
「えぇ老朽化して、随分前に取り壊さちゃいましたがね」
取り留めはないが、中々に興味深い話を聞きながら、サクラはある事に気が付いた。
確かに面識はある。
だが、この人の名前は?
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