飛鳥山公園

2/2
前へ
/13ページ
次へ
「うぁ、、っ!」 眼の前に広がる光景に、香月サクラは思わず感嘆の声を挙げた。 上野を過ぎた辺りから、列車の車窓の外を流れていた無機質な灰色の壁が途切れた途端に視界に飛び込んで来たのは、艶やか小桜色の色彩だ。 その突然な変化は、感動的ですらある。 自然に笑みが浮かぶ。 景色が緩やかに、その流れを止めると、一呼吸置いて、列車の扉が開く筈、、だが、そのわずかな時間さえ、待ち切れないサクラは開き切らないドアから、ホームへと飛び出した。 降り立ったのは京浜東北線『王子駅』 乗ってきた列車が去った後に視界に飛び込んで来たのは、 『飛鳥山』 江戸の昔から庶民に愛された桜の名所である。 今、まさに桜の花の盛りを迎えた飛鳥山は、山全体が、桜色のベールを纏ったかの様な姿だ。 明け方に雨が少し降った影響か、曇りがちなのが残念と思った瞬間! 一陣の風が吹き抜ける。 雲間から、朝の柔らかな光が降り注ぎ、風に波打つ桜色のベールに絶妙なコントラストをつける。 その姿にしばし絶句。 「、、、綺麗!」 サクラの口から、再び感嘆の声が上がった。 ・・・・・・・・・・・ 思い立ったのは、昨夜の事。 テレビのニュースがきっかけだった。 『そういえば、しばらく花見なんかしてなかった気がする』 そんな事を思ったら、無性に『花見』に行きたくなった。それもどうせなら『名所』と呼ばれる場所に行ってみよう! それも一人で! そんな事を考え、色々と調べた結果に、たどり着いたのが『飛鳥山』だった。 上野も一応検討してみたが、どうしてもガラの悪い印象があったのと、天下の『アメ横』に近いという立地条件から、今回は外す事にした。 誘惑に負けて、 『花より団子』 に成り兼ねない。 あくまで静かに、純粋に花見を楽しむ事が目的なのだ。 そこまで考えて、サクラは気付いた。 『早朝なら、独り占め出来るのではないか?』 朝の清浄な空気の中、咲き誇る満開の桜を一人で見上げる。 この上ない贅沢ではないか? ましてや、明日は平日である。 自由業の自分はともかく世間様に、仕事を休んでまで花見に来る物好きが、そうそういるとは思えない。 鼻唄混じりで準備を整えると、普段滅多に使わない目覚ましをセットすると、サクラはベッドに潜り込んだ。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加