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『飛鳥の小径』は、その名の通りの小道だ。
かなり基準を下げなければ『大柄』のカテゴリーに入るのは難しいサクラでも、両手を広げれば簡単に『通せんぼう』が成立してしまう。
一般的な成人同士がすれ違うには、多少なりとも譲歩と思いやりの心が必要になる。
そんな小道も、今の時間なら独り占めだ。
誰に気兼ねする事もなく道の真ん中を歩く。
雨上がり特有の清々しい潤いを含んだ大気に、木々や草花の香気が混じり合い、優しく鼻の奥をくすぐる。
思わず深呼吸。
一呼吸ごとに柔らかな活力が流れ込んでくる心地良い感覚。
「あぁ!癒される!!」
ぐっと体を伸ばす。
木々の隙間からこぼれる弱い朝の光の中で、濃密な空気中の水分が、キラキラと輝いて見える。
視界に入る全ての物が、新鮮で、周囲を見回さずにはいられない。
視線を路上に落とすと、散り落ちた桜の花びらがそこかしこに洲を作っていた。
そのまま視線を右手側に移す。
線路沿いに古びた建物。
よく見ると看板らしき物が見える。
どうやら赤ちょうちんらしい。
古き良き昭和の雰囲気満点の風景だ。
ここが都内。
しかも東京駅から二十分程度。副都心たる新宿からでさえ、三十分程度の立地条件とは思えないのどかさである。
すぐ脇を結構な頻度で電車が通っている筈だが、まったく気にならないから不思議だ。
折しも、上野方面からの列車がホームに滑り込んで来た。
「?!」
視界の端で何が動いた。
眼下の斜面。
ブロックに覆われたその上を、無数の花びらが風を受けて、舞い流れていく。
「…きれい!」
なんだかとっても得をした気分だ。
感動の余韻に浸りながら歩を進める。
程なく、小径は二つに分かれた。
左は上に続く少々急な階段。
正面は、緩やかに下っていく。
どちらを選ぶか?
しばし思案。
まっすぐ行くのも悪くない。
ただ、位置関係を考えると飛鳥山を出てしまう可能性が大きい。
そうなると目の前は交通量の多い車道の筈だ。
いい気分が台無しになる。
サクラは左に歩を進めた。
階段を昇りきる。
見上げた視線の先に満開の桜!!
「う、、わぁ!!」
思わず声が漏れる。
足元に視線を転じれば、色とりどりの春の花々。
上がるテンション!
足どりも軽い。
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