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鼻唄の一つも出てこようというもんだ。
ふと気付けば、前方。
黄色と黒のロープが張られた一角が目に入った。
些か無粋ではあるが、好奇心は少なからず刺激される。
歩を速め、ロープの前に立つ。
「うっわぁ!?」
切り開かれた一角。
見下ろす眼下には趣がある造りの町並み。
そこに桜の花びらが風に舞う。
さながら雪の様だ。
「綺麗っ!!」
値千金とはこの事だ。
もうこの風景だけでここに来た価値がある。
しばし絶景に見とれる。
深呼吸を一つ!
ここである事に気付いた。
完全に手ぶらだ。
飲み物なりを駅周辺で揃えてらか来ようと考えていたのだが、ホームで見た光景にテンションが上がり過ぎて、キレイさっぱり忘れていたのだ。
「ま、あんなの見せられちゃったんだから、仕方ないよね?」
自分自身に言い訳。
それすらなんだか可笑しくて、つい吹き出してしまった。
とりあえず熱い缶コーヒーでも買って来よう。
自販機くらいあるはずだ。
お気に入りの薄いピンクのスプリングコートのポケットに手を入れる。
指先にひんやりとした硬貨の感触。
そのままつまみ上げる。
五百円玉だ。
サクラは満面の笑みを浮かべたまま、自販機を探すべく、一歩を踏み出した。
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