…三…

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鼻唄の一つも出てこようというもんだ。 ふと気付けば、前方。 黄色と黒のロープが張られた一角が目に入った。 些か無粋ではあるが、好奇心は少なからず刺激される。 歩を速め、ロープの前に立つ。 「うっわぁ!?」 切り開かれた一角。 見下ろす眼下には趣がある造りの町並み。 そこに桜の花びらが風に舞う。 さながら雪の様だ。 「綺麗っ!!」 値千金とはこの事だ。 もうこの風景だけでここに来た価値がある。 しばし絶景に見とれる。 深呼吸を一つ! ここである事に気付いた。 完全に手ぶらだ。 飲み物なりを駅周辺で揃えてらか来ようと考えていたのだが、ホームで見た光景にテンションが上がり過ぎて、キレイさっぱり忘れていたのだ。 「ま、あんなの見せられちゃったんだから、仕方ないよね?」 自分自身に言い訳。 それすらなんだか可笑しくて、つい吹き出してしまった。 とりあえず熱い缶コーヒーでも買って来よう。 自販機くらいあるはずだ。 お気に入りの薄いピンクのスプリングコートのポケットに手を入れる。 指先にひんやりとした硬貨の感触。 そのままつまみ上げる。 五百円玉だ。 サクラは満面の笑みを浮かべたまま、自販機を探すべく、一歩を踏み出した。
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