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「何言ってるんですか。学生であろうがなかろうが、今のこのご時世、無いよりも有ったほうが何事もお得ですよ」
言ってない。僕は今断じて言ってない。モノローグにまで干渉するのは止めていただきたい。
「んー?一樹くん、さっきから何見てんのー?」
と、一樹の隣に座っていた狩波が、そんなことを呟いた。
こちらも一樹の方を見れば、何やら携帯電話に注目しているのが分かる。確か、一樹の携帯ではTVが見れたはずだ。おそらく、それを見ているのだろうと納得する。
そして、それを見ていた一樹の顔付が尋常ではないものだと僕が気付くのに、ほとんど時間が掛からなかった。他の皆もそうだったようで、僕を含めた四人の視線が、何事かと一樹を見つめていた。
数秒の間、固まったようにピクリとも動かなかった一樹だが、ようやくこちらの視線に気付いたのか。あるいは狩波の質問に答える気になったのか。未だ携帯の画面から目を放すことなく、しかし動揺で震える唇を動かしていた。
「た、……たった今入った、報道らしいんだけどよ」
その言葉を紡ぐ間にも、一樹の手は振るえ、荒く息をしていた。それを押さえてやるように、隣に座った狩波が、彼の携帯を握っていない手を、自分の手で優しく包みこんでいた。
「皆も知ってると思うけどよ、うちの近所にあった少しばっか寂れたファミレス。
……覚えてくれてるか?」
一応の確認に、俺達は無言で首肯する。確か、去年の夏辺りにこの場にいる全員で行った覚えがあった。あの店は一樹の家の近くで、一樹の従姉がバイトで働いてるとかで以前から自慢していた店だから、よく覚えている。
肝心の一樹の従姉というのも、一言二言だが会話も交わした。一樹に似た印象の、垢抜けた女性だったのは記憶に新しい。
「そのファミレスが、一体全体どうしたと言うんです?」
俺達の疑問を代表するかのように、いいんちょが一樹に質問する。
そうして、一樹からもたらされた返答が、今からほんの短い期間に凝縮された、悪夢の始まりだったのかもしれない。
「……つい一時間くらい前に、殺された、らしいんだよ。
店員も客も含めて、二十人相当が、ファミレスの中で。防犯カメラに、映ることなく」
その時、この場にいる俺達は、ようやく気付いた。
遠方で鳴り響いている、けたたましいサイレンに…………
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