192人が本棚に入れています
本棚に追加
いつだって君は、人のことばかりだから。
今回の大きな決断だって、心にほんの少しの迷いさえあれば、攫って行ってしまおうと思ったんだ。
君がどんなに泣き叫ぼうと、どんなに嫌われようと、攫ってしまおうと思っていたんだ。
カガリが国の為に結婚を決め、今日、結婚式が行われる。
ほんの少しの時間だけ二人きりで話しをすることが出来た。
多分、…最後の。
「…カガリ」
名前を呼ぶ声が、少し震えている。
そんな声に純白のドレスに身を包んだカガリは真っ直ぐな瞳で、アスランを見据える。
「結婚…おめで、とう」
ずっと言えなかった言葉。言いたくなかった言葉。
そんな言葉に、カガリの瞳は少しだけ揺れた。
でも、そんなのは一瞬ですぐに柔らかく微笑み、
「ありがとう」
そう言える強さを、ちゃんと持っているんだ。
「アスラン…私、幸せになるよ。…必ず。だから…」
「わかってる。カガリ。愛してる。でも、俺も、君じゃない誰かと…幸せになるよ。きっと」
正直涙が出そうだ。
自分は、ちゃんと笑えているのだろうか。どっちにしろ、まだ言わなくてはいけないことがある。一番…大切なこと。
「…その為に、本心はここに…おいていくよ」
本当は君を誰かになんて、渡したくない。
愛してる。
誰よりも愛してる。
カガリの顔が、少し切なげに歪んだ気がした。
刹那、部屋に響くノックと声。
「カガリ様、お時間です」
「あぁ、…わかった」
ちょっとした、最後の支度をするカガリ。
それが終わると、ゆっくりこちらを見た。
「…幸せになって、アスラン。それから…」
「 」
音はなかった。でも、口の動きで、何を言っているのかははっきりわかって。
「私も…本心はここにおいていく」
お互いの気持ちを、突き通せる、そんな、優しい世界で生きられたら良かったのに。
アイシテル
同じ気持ちは、一雫、零れ落ちて、この場所に残った。
さよなら、何よりも大切だった、愛しい心の欠片。
-fin-
最初のコメントを投稿しよう!