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「気にしてませんから」
…そう言いたいのに、その言葉がなかなか出てこない。
「…いえ」
ただ、そう呟くしか出来なかった環に、佐和子は取り繕うように言った。
「…愁と、大喧嘩しちゃって!…その…嫌な思い、したよね。本当に…ごめんなさ…」
「仲直り…ちゃんと出来ましたか?」
涙混じりに気丈に振る舞う彼女に、環はあげられる精一杯の言葉で、佐和子の「ごめんなさい」を遮った。
「う、うん」
「…良かったですね」
環は目を細めた。
勿論、それは環の素直な気持ちだ。
佐和子と愁がどれだけ互いを想い合っているかはよく知っている。
隼人と佐和子が抱き合っていた事だって、特別な意味などないということも、本当は分かっている。
頭では分かっているのに、それに心が追いついていかないだけなのだ。
「…ありがとう。…環ちゃんは…風邪はもう平気?」
「はい、おかげ様で」
「そう…良かった」
ぎこちない会話が居心地悪くてそわそわしてしまう環を電話越しに感じて、佐和子は虚ろな笑みを零した。
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