チョコとキョウキ

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「わかった。とりあえずじゃあな」  心なしか暗く感じる廊下に出ながら俺は山本に背を向けながらとりあえず別れを告げた。 「おう。多分追いつくから」  俺に向かって放たれた山本の声はもう遠かった。  階段へと続く廊下を歩きながら思う。『結局あいつは俺にチョコを一つもくれなかったな。少し期待していたのになぁ』と。  だってそうだろ? 一つくらいくれたっていいじゃないか。  いつの間にか肘の辺りまで下がって来ていた鞄をもう一度俺はしょいなおすと、大分古びて来ている階段を降り始める。  視線は何故か足元にばかり行っていたようで、どうしても一つの段ずつの隅っこにたまっている埃が気になって気になって仕方がなかった。  ちゃんと掃除やってんのかねぇ? なんて思ったのだが、あまりにも簡単にその答えに行き着いてしまったので、このことに関する思考を停止する。  俺は重い鞄――もちろんその重みの十割を占めているのが教科書だ――が肩に食い込んでいることに不快感を覚えながらも、一段、また一段、と階段を下り続ける。  一段一段を降りるのがいつにもまして長く感じるのは山本が隣にいないせいなのだろうか。
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