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暫しの沈黙の後
茂木は急に真面目な顔になって
「で、ずっとデザインの仕事はしていたの?」
と口を開いた。
「ううん。
結婚してから、と言うより
20歳の時に離れてそれからはずっとしていない。
正直ブランクあるし、話だけ聞いてみようかと思って」
「もったいないね。
山口の作品、良かったのに」
学校トップの茂木にそう言われて、綾は照れ笑いを浮かべる。
あの頃は、デザインより加賀屋が全てだった。
彼さえいるなら、夢なんてどうでもいいとさえ思っていた。
元々加賀屋は、大学に落ちて、なんとなくデザインの学校に入った男だったから
正直デザインなんてどうでも良かった、と後で聞いたし
学校にも、殆ど顔を出すことはなかった。
加賀屋を好きになってしまった綾は
加賀屋と一緒にいたくて、学校もサボりがちになり
進級に必要な課題と単位を取る以外は、彼の部屋で過ごしていたから。
今だから思う。
もっと学んでおけばよかったと。
もっと広い世界を見ておけばよかったと。
離婚していなければ後悔もしていなかったかもしれない。
でも加賀屋と離れてから、何もない、加賀屋だけだった自分に後悔がつのる。
「茂木君こそ、凄い。社長さんなんだね」
加賀屋の事に触れられたくなくて
綾はとっさに話を変える。
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