異空間

6/8

37人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
暫しの沈黙の後 茂木は急に真面目な顔になって 「で、ずっとデザインの仕事はしていたの?」 と口を開いた。 「ううん。 結婚してから、と言うより 20歳の時に離れてそれからはずっとしていない。 正直ブランクあるし、話だけ聞いてみようかと思って」 「もったいないね。 山口の作品、良かったのに」 学校トップの茂木にそう言われて、綾は照れ笑いを浮かべる。 あの頃は、デザインより加賀屋が全てだった。 彼さえいるなら、夢なんてどうでもいいとさえ思っていた。 元々加賀屋は、大学に落ちて、なんとなくデザインの学校に入った男だったから 正直デザインなんてどうでも良かった、と後で聞いたし 学校にも、殆ど顔を出すことはなかった。 加賀屋を好きになってしまった綾は 加賀屋と一緒にいたくて、学校もサボりがちになり 進級に必要な課題と単位を取る以外は、彼の部屋で過ごしていたから。 今だから思う。 もっと学んでおけばよかったと。 もっと広い世界を見ておけばよかったと。 離婚していなければ後悔もしていなかったかもしれない。 でも加賀屋と離れてから、何もない、加賀屋だけだった自分に後悔がつのる。 「茂木君こそ、凄い。社長さんなんだね」 加賀屋の事に触れられたくなくて 綾はとっさに話を変える。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加