美しいもの

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綾の仕事は、庭の花々への水遣りから始まる。 すっかり初夏らしく熱くなった日差しに 美しい花々が負けてしまわぬように、水の帽子を注ぐ。 愛情をかければかける程に それに答えてくれる物言わぬ友人たちは、いつも綾を癒してくれた。 事務所の鍵を回し、なかなか開かない古い窓をこじ開ける。 気持ちの良い風が、綾の髪の毛を揺らす。 いつも思う。 ここは現代なのだろうかと。 もちろん、事務所の中には、何台ものパソコンやコピー機などがあり 間違いなく現代な事を裏付けているけれど それでも、時間の流れと言うか この家がかもし出す雰囲気と言うか 過去でも、未来でもない 不思議な空間を作り出している。 茂木に雇われて2ヶ月あまり。 すっかり綾は、この場所に魅了されていた。
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