第一章

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――前から後ろに向かって流れる夕陽に照らされた並木道。 ふと右を見ると母がハンドルを握っていて、俺はその隣に座っていた。  「おかえり、凜」 「ただいま……?」 俺は、今は、 今日はいつだ? 「母さん、俺は――」 「病院に行ってたのよ」 「交番のお巡りさんには一応お礼を言っておいたけど、後でもう一度ご挨拶に行かないとね」  そうじゃない。  何かが足りない。  何かが思い出せない。  俺の鈍い思考とは裏腹に、母の運転する車は街路樹と同じく夕陽を受け、懐かしい自宅への道を軽快に駆け抜けていった。
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