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「ところでシャナ娘さんってやっぱり平田財閥のお方なんですよね?」
結構ノッてきたものの、少し自分を落ち着けて確信をついてみることに。
「……聞いたでしょ、私は正真正銘の平田の娘よ」
あれ、なんか声のトーンがさっきより低いような…?
「は、はぁ…でもほんとびっくりしたよ。まさか…」
「もういいでしょ!!」
な、何事!?
俺の声をかき消すようにシャナ娘さんが怒声を発し、更に壁に力いっぱい拳を叩きつけていた。
あの…壁、大変な事になってますよ?コンクリートにヒビが…。
「シャナ娘さん…?」
恐る恐る声をかけてみるが、全く反応は無しで、壁を殴り少し血が滲む小さい拳を強く強く握り締めて震えていた。
それを見て思い出す。
さっき職員室から出て鉢合わせした時の彼女の様子を…。
調子に乗ってすっかり忘れていた。俺は最低だ。
「……ごめん、その話しは嫌いなの」
自己嫌悪に浸っていると、小さな消え入りそうな彼女の声が耳に届いてきた。
「あ、いや、こっちこそごめん…」
そう言いながら彼女に目をやると、シャナ娘さんは笑っているのか泣いているのかよくわからないような顔でこう応えてくれた。
「別にいい…私、こんな風に話しをするの久しぶりだったから、なんかよくわからなくなっちゃって…うん、そゆこと。それじゃね」
それだけ告げて彼女は俺に背を向けた。
…きっと、彼女にとっては平田財閥の娘だとかそんなことはどうでもいいんだ。
ただ普通に誰かと話したり遊んだりした事があまりなくて、そしてそれはさっきゲンドーが言ってたような事が原因で…。
「シャナ娘さん!!」
気づいたら俺は走り出していた。
「?」
それに気づいた彼女も立ち止まりこちらを振り返る。
そして――
「俺と、友達になってください!!」
シャナ娘さんの痛そうに腫れた手ともう片方の手を取り、俺は叫んでいた。
自分が一体何をしたのか、どういう事を言ったのか、実はあまり理解出来てなかった。
ただ、別れの挨拶を告げた時の彼女の、どうしようもなく寂しそうな、無理矢理の笑顔を何とか救いたいと思った。
それだけは確かに頭に存在していた。
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