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暗く、沈む様な闇の空間。
そこにある感情は悲しみ、憎しみ、そして絶望。
その交わる闇の河を、男は眺めていた。
そして、その河を流れゆく哀(アワ)れな魂を掬い上げるのだ。
“彼”は男を河の底から眺めた。
多くの魂は叫ぶ。
自分を助けてくれ、と。
しかし、“彼”はただ眺めるだけだ。
そして男は河に手を伸ばした。あの手に捕まえられた者だけが苦しみから解放される。
そして、その男に捕まえられたのは“彼”だ。
助けを求めなかった自分を何故助ける?
疑問に思ったが、河を出た心地よさに、そんな疑問は消し飛んだ。
「うん、君がいい」
男は呟く。そして聞き慣れない言葉を口にした。
“彼”が首を傾げると、男はゆっくりと発音する。
「デーリッヒ・ビー・ノヴァラス・クルトス。君の名前だ」
随分長い名前だ。
しかし、“彼”──否、デーリッヒは与えられた名前に満足した。
デーリッヒが大きく頷けば、男は嬉しそうに笑った。
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