〇、温かさを知らない

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  ルントシュテット王国の王都ルクヴルールの朝は早い。 国民は早朝四時に起床する。 五時には身支度や仕事の準備をして、六時に近くの教会へ行き、毎朝の恒例であるミサをして、朝食を食べて七時には店を開店する。 貴族や王族の朝は六時からだ。 身支度を整え、七時に大聖堂に集まってミサが始まる。 しかし、ルントシュテット王国第二王女──ナシェル・ヴァル・マルヴァナの起床は他の貴族や王族達が朝食を食べる八時だ。 そして、今日も時刻は七時を少し過ぎた時間に、彼女の乳母のダーラが起こしにやってきた。 毎回ミサをサボるのだから今日こそはと張り切るダーラだが、その想いは虚しく散った。 なぜなら、いつも大きなベッドで寝ているはずの王女の姿が見えないのだ。 かわりに、ベッドの隣にある小さなテーブルに、文字が並ぶ紙切れが置いてあった。 『でかける』 短く無造作に書かれたその文字の意味を理解するまで、少々時間がかかった。 そして、はっと我に帰ったダーラは腰に手をあてた。
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